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認知症の方とのお付き合い Vol.2(被害妄想)2009-01-15
 認知症の方とのふれあいにつきまして、やっとこれから、具体的なお話ができそうです。


 今の施設で、私は4名の方の担当をしています。担当と言っても、一日中その方の介護をするわけではなく、ご家族やケアーマネージャー(介護プランを立てる人)との接点的役割や全体的な見守りをするのが役目です。


 その担当している中のお一人は、昨年11月より新たに担当することになった被害妄想の強いKさんという86歳の女性です。この方は、施設一のクレーマーで、日に何度も何度も、目を三角にしてステーションや事務所に怒鳴り込んで見える方でした。自立の方ですので、自由に歩かれます。


 「この施設には、ドロボーがいる。物が片っ端からなくなる。私が外出(病院への受診など)しているときに合鍵を使って入り込み、部屋をメチャクチャに荒らしまわっている。」などと、ひどい日には昼夜を問わず10分間隔で数十回の訴えがあり、気が狂っているとしか思えない状態でした。
 施設では、入居者の方の言い分に真っ向から否定したり咎めたりすることは決してできませんので、話の通じないこの方にまくし立てられると、施設長はじめ誰もがお手上げ状態になってしまいます。


 私も、この方のご機嫌の悪いときにつかまったが最後、30分も1時間も開放してもらえなかったことがありました。仕事に支障をきたしますので、私は、なるべくその方とすれ違わないように、視線を合わせないようにしていました。その方の姿を見つけたら、別な廊下を通りました。
 ところが、なぜだかその方の担当になってしまったのです。介護の仕事さえおぼつかない、まして認知症のことさえ全く理解できていない介護職2ヶ月が経ったころのことです。


 仕方がないので、なるべく努めてその方の居室をご機嫌伺いに訪れることにしました。勤務時間中は忙しすぎてKさんとゆっくりお話できませんので、訪室するのはたいてい勤務時間の前後でした。


 まず、この方の居室は、所帯道具が多く足の踏み場もないくらいです。衣類や布団類や本や雑貨が、二つあるクローゼットや洗面所からはみ出して収拾がつきません。そして、ご本人にはもう片付ける体力がありません。こんなようすでしたら、普通の人だって物がなくなるのは当然でしょう。(この散らかり具合も、この方の悩みのひとつです。)


 Kさんは、苛立った心をぶっつけようと、私に対してもいつも尖った声で繰り返し被害にあった話をされました。部屋を荒らされたり、物がなくなったり、スタッフが合鍵をたくさん作っているという訴えに対して、私は、心もとなく(内心は必死でしたが)「お困りですねえ。一緒に探しましょうか?」などとマニュアル的な応対しかできませんでした。その結果、「気休め言わないでよ!こんなドロボーのいる施設なんて!」と叱られるばかりで途方にくれました。「否定しない」、「禁止用語を使わない」ということをよく耳にしていましたが、いざ実践となるとそれくらいの知識だけでは、何も役に立ちませんでした。


 しかし、ある日ふと思ったのです。もしもKさんの言われることがほんとうだと仮定してみて・・・、Kさんの世界に入って一緒に同じ気持ちになってみたら・・・?と。
 もしスタッフが勝手に合鍵を作ってKさんの留守中に部屋を荒らしていたら。Kさんの大切なものを盗んだりしていたとしたら・・・。私だって、これが解決するまでは、断固として施設に抗議するでしょうし、警察沙汰にもするだろうと思えてきました。お気に入りの物がなくなったらとても悲しいですよね。


 そこで私は、ある日Kさんに言いました。「Kさんって、寛大な方なのですねえ!私だったら、とてもそんな怒りでは治まらないと思います。よく辛抱なさっていますね。」と。これは、話を合わせているわけではなく本気で言いました。すると、Kさんは、「まあ!あなた、私が寛大だなんて!ホホホホホ・・・、こんな鬼婆をつかまえて!」とおっしゃるのです。それから、心が緩んだのか、いろんな昔話や、自分が今までやってこられたボランティアの話などをしてくださいました。そして、施設の対応がいかに腹の立つものであるかも。


 お話を伺ううちに、だんだんKさんの心の中が見えてきたように思えました。Kさんの怒りの原因になっていたものは、「自分の話を信用してくれない」「うわべだけで謝りながら、せせら笑っている」「きちがい扱いされている」というような、いわゆる“自分を認めてもらえない”というものでした。そして、「誰も私のことなんか心配をしてくれない」ということも。


 被害妄想さえ取り除けば、Kさんが、とても親切で正直で誠実な方だということが分かりました。涙もろく、温かな方でもありました。近年まで老人施設でお年寄りのお世話や朗読のボランティア活動をやられていただけあって、とにかく頭がよく、弁が立ち話し方はさすがに歯切れがよく流暢です。ご機嫌のいいときの上品な言葉使いや立ち振る舞いには教養が感じられます。お顔も美形です。お若いころはさぞかし美しかったことでしょう。


 私も、長年サービス業(会社勤め32年+“野の花”7年)に就いていましたので、気配りやサービスのあり方にはとても敏感です。ですから、ご自分が今までやってこられたことを考えて、今の介護施設での対応にご不満をお持ちなのも、ほんとうによく理解できます。


 それからは、なるべくしっかりKさんを観察するようになりました。食事のときも、食べ具合をしっかりチェックしました。「あら、今日は食欲がないようですが、どうかなさいましたか?」と声をかけたり、訪問したときに、居室のチェックもしました。電気のコードが部屋の中央を横断していたので「あら、これは危険ですから・・・。」と言って、壁際を這わせるようにしました。Kさんのベッドの横に足マットが敷いてあるのですが、その下になぜかツルツルの新聞広告を数十枚も敷き込んであったので、「こんなことしたら、滑って転んでしまいますよ!」とその広告を取り除いたこともありました。


 極々当たり前の些細なことでしたが、それは意外なことにKさんにとってとても嬉しかったことのようです。
「あなただけよ、そんなこと言って心配してくれたの。」とおっしゃいました。・・・もっとも、認知症の方は、たった今あったできごとも、すぐに忘れてしまわれますが。


 そんなことが功を奏したのか、それとも他に何かきっかけがあったのかどうか分からないのですが、Kさんのクレ−マー振りは、ほとんど影を潜めてしまいました。訪室すると、苦言を言われることもなくなって「まあ、すみません、よく来てくださいました。お茶も差し上げないで!」ととても丁寧に言ってくださるようになりました。


 ある日の昼食中、席に近づいて声をかけると、「私、もう今日の午後にでも死にたいと思っているの!生きていても意味がないから!」とご飯茶碗を持ったままおっしゃいました。私は、「まあ〜!」と言いました。そうしたら、お茶碗の中のご飯があと一口しか残っていないのに気づかれ、「あら、いやだ!・・・こんなに食べてたら死ねるわけないわね!」とおっしゃったのが妙に滑稽でおかしくて、私は噴出してしまいました。Kさんもそれにつられて笑われ、周りの方と一緒に大笑いになりました。


 年が明け、1月3日の施設でのお正月イベントでは、私も企画に加わり司会もやったのですが、自分が企画に首を突っ込んでいたこともあり、Kさんにもぜひ見に来ていただきたいと思いました。
 内容は、「福笑い」と「二人羽織」(これは、“化粧”と“生クリームのケーキを食べさせる”)と「ビンゴゲーム」の1時間程度の簡単なものでしたが、きっと笑っていただけると思ったのです。


 館内放送でご案内をしたのですが、イベントが始まる直前にKさんが見えないのに気づき居室にお誘いに行きました。Kさんは、ベッドに横になっておられ参加を拒否されました。
「私ね、今日はとてもきついの。立ち上がるだけでフラフラするのにとても行けないわよ。第一、私は、そんなの好きじゃないのよ!」
「歩いて2,3分じゃないですか。車椅子お持ちしてもいいですよ。それともおぶって差し上げましょうか?」
「あなたもしつこいわねえ。・・・いい?私の身になってちょうだい。私はきついのよ!」
「私、Kさんにぜひ来ていただきたいんです。行って面白くなかったら、直ぐにお送りしますから帰ってくださっていいのですよ。とにかく行くだけ行ってみましょうよ!」
「何でよ〜!あ〜あ〜!もう〜!・・・ム!分かった、負けたわ。行く!」


 そして、予想したとおりKさんが他の方々とともに、大笑いをされていたのをちゃんと見届けることができました。


 その日以来、Kさんは、私に会うたびに同じ言葉を、まるで初めて言うようにおっしゃいます。
「ああ、あなた、田崎さんとおっしゃるの?あら、あなたが私の担当なの?」
「ねえ、あなた、この間(お正月会に)誘ってくださった方だったかしら?・・・ああ、やっぱりそうよねえ!あの日は楽しかったわ!あなたが誘ってくださらなかったら、私、絶対行かなかったと思うの。あのときは、誘ってくださってありがとう!」


 近ごろは、昔話もよくしてくださいます。
 Kさんのお宅は、姉妹ばかりで、養子をもらわなければならないご事情だったそうですが、勤めていた会社で、ご主人から一目惚れされ、「一緒にしてくれなかったら、井戸に飛び込む!」とご主人がご自分の家族を強引に説得されたことなども。お庭にある、深〜い井戸だったそうです。昔ありがちな、結婚されるまでデートをしたことも、話をされたこともなかったそうです。そんなお話をなさるときは、照れ笑いをしながら目がキラキラと輝いて、それはそれは楽しそうです。


 また、戦時中の空襲の話で、空襲警報が出て防空壕へ避難しようとしていたとき、近くにいた兵隊さんが、「早く、早く!逃げ込め!」と手招きして怒鳴っていたので、みんなでがむしゃらに走ったこと。
 「私たちを防空壕に避難させてすぐに、爆弾が落ちたのよ!その兵隊さんは、私たちを見守り、防空壕の外で亡くなられたの。・・・私は、空襲の事を聞くたびに、いつもその兵隊さんのことを思い出し、手を合わせずにはいれないの。だって、あのときあの兵隊さんが怒鳴らなければ、あんなに早くは走らなかったと思うのよ。今でも、その方のことを思うと、私涙が止まらなくなるの。」


 「認めてもらえる」「自分のことを気遣ってくれる」が、どれほど大切なことかを思い知りました。通常の社会でも同じことですよね。怒りは、悲しみの裏返しですね。
コメント
 宙さま、改めまして、
いつもコメントありがとうございます!

 普段喋らない方が、お話くださるとほんとうに嬉しいものですよね。でも、おっしゃるように、細心の注意を払わないとヒヤリとさせられることがあります。

 ところで、実は私も今夜、佐々木さんの”古武道”のお教室に行ってきたのですよ!同じ日だったなんて!!先生は、佐々木さんではありませんが(佐々木さんは生徒でした。)、何の力も使わずに相手を倒してしまうのが非常に面白くて夢中になりました。

 介護に、古武道を活用してみたら?という佐々木さんからの提案でした。なかなかいいです!ちょうど、私もそのことを考えていたところでしたので、まさにシンクロニシティでした。

 あの意表をついた技が使えるようになりたいと、今夜は、かなりテンションが上がっています!
(“野の花” 2009-01-21)
古武道、 なぎなたに惹かれていた私には、魅力ある言葉ですね。介護はまず腰ですし、もう少し前に習ってたら良かったなと思います。想像するに凛々しいお二人いつか拝見したいもの、それにお仕事に有効だったらいいですね〜 心身ともに惜しみなく尽くされてる今、やはり野の花のイメージそのもの。。。

  風邪ピークとか お疲れ貯めないようになさってくださいね。
(宙 2009-01-21)
 宙さま、まだ習い始めてもいない私が言うのも変ですが、一度見学いらっしゃいませんか?
 毎週火曜日の19:00〜20:30までです。私は、勤務が不規則で毎週というわけには行きませんが、今度の27日には、また行こうと思っています。
 先生もカッコいいです!
(“野の花” 2009-01-22)
又佐々木さんに場所聞いて、近かったら一度拝見したいものですね。    
でも田崎さんが先生のようにかっこよくなられた頃伺おうかしら!?

私は硬いので、気功でもガタガタフーフーいってます
( 宙 2009-01-25)
 宙さま、
 そうおっしゃられると、私だって身体カチカチ、コチンコチンで、全く柔軟性がありません。実は私も、そこが心配なのであります!(笑)
 ですけど、介護で活用できるコツをほんの少し教えていただくだけなので(はまってしまわなければ・・・)、長居はしないと思います。

 場所は、同じ壱岐公民館です。
(“野の花” 2009-01-26)
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