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失語症の方とのお付き合い:その息子さんのこと Part12011-02-16
 昨年の5月から、また新たな個人宅でヘルパーを続けています。
今お世話させていただいているのは、Y子さんという78歳の女性で脳梗塞が脳出血となり右麻痺になられた方です。右麻痺ということは、身体の右半身が完全麻痺なのですが、脳の言語中枢にも損傷があるので言葉や文字の読み書きにも支障があります。いわゆる失語症と言われるものです。認知症もおありなのかどうか、勉強不足の私には失語症との境がよく分かりません。以前居た老人施設でもお会いしなかったので失語症の方は初めてです。


 ご家族は、80歳のご主人と未婚の娘さんがふたり、それに、42歳の息子さんがいらっしゃいます。
 息子さんは、エリートのプログラマーだったのですが、28歳で交通事故に遭い下半身麻痺になられて以来お母さんと同様車椅子の生活です。もっとも、車椅子の生活は、息子さんのTさんのほうが早かったのです。その身障者のTさんのために、敷地内にバリアフリーの離れが建てられ(家の出入り口には、車椅子用のリフト)、そこでお母さんがお世話をされていたのですが、その後お母さんも病気で車椅子の生活になってしまわれました。


 その息子さん、すごい方です。ちゃんと自立されていて車も運転されますし、アルバイトながらパソコンの仕事もされています。脊髄損傷による下半身麻痺なので排便さえも自力でできず、週3回排便のための訪問看護を受けられています。実は指も思うように使えません。ペンもお箸も握れません。なのに簡単なサポーターを使って何でもこなされるのです。車に乗り込むのは、20分もかかりますが、乗った後、車椅子を不自由な手で後部座席に上手く収納もされます。入浴も、ハンモック式のリフトが設置されているので自分で入られます。誰もいないときはお母さんのベッドでの寝起きやトイレの介助までもされます。
 右の画像は、Tさんの下着です。よく見ると前開きになって開閉が出来るようにマジックテープが付けられています。それに、その上部にはループ状に2本の紐も付いています。これは、Tさんのお母さんであるY子さんがお元気な頃、指先さえ不自由なTさんのためにリフォームされたものです。ジーンズやジャージのズボンなどもすべてリフォームされています。もう7,8年前に作られたものをとても大切に今も愛用されています。もちろんズボン類も。


 母親の息子を思う気持ちが痛いほど伝わってくるように思います。前途洋々に思われた愛する我が子が肢体不自由になってしまったときの悲しみと嘆きがどんなものだったか想像に余りあります。
 

 私は今まで、お年寄りは別として、身障者の方とのお付き合いが皆無でしたから、毎日のTさんの行動に目を見張りました。車椅子を操作する彼の腕は、筋肉がなく板のような薄さです。この腕で何でもされているのだと思うと胸が詰まることがあります。訪問看護のときの血圧測定を傍で聞いていると、上の血圧が60しかない時も多々ありますが、訊かない限り決して具合が悪いことを訴えられません。すごい精神力です。時々は介助の申し出をするのですが、やっと甘えてくださるのは、湯上りにパンツやズボンを腰まで履かせてあげることだけくらいです。それらは、もう既に太股まで履かれています。車椅子に乗ったまま腕の力だけで身体を持ち上げられるので、その隙に履かせてあげます。体温調節も機能していなくて、湯上りは39度や40℃にもなられるのだそうです。夏場もエアコンは必需品のようでした。


 そして、そんな息子さんが、私が勤め始める一月前に、訪問看護の看護婦さんと結婚されたのです。きっと奥さまは、そんな頑張り屋のTさんの生き方に深く感動されたからでしょう。Tさんは、現在は家を出て近くでマンション暮らしをされていますが、日中は自立できる設備のある元の家にほぼ毎日車椅子で通って来られます。
 ご主人は、いつも広い敷地内の庭仕事や畑仕事をされていますが、ご家族や他のヘルパーさんが誰もいないときは離れに見えられて、一緒にTV を観たりお茶を飲んだりされています。夜は、下の娘さんが面倒を看られお母さんのお部屋で休まれています。


 Y子さんは、リハビリのため週2回はデイサービスにも通われています。Y子さんのキーマンは、息子さんのTさんです。私がoffの時間帯や休日には、派遣会社から5〜6名のヘルパーさんたちが交代で入られています。派遣会社やケアーマネージャーさん、デイサービスとの対応、シフト勤務表の作成などすべてを引き受けておられます。
 私はそんなお宅に、知人の紹介で1日6時間の仕事で週5日間通っています。早朝3時間、夜間3時間の1日2往復だったり、お昼から6時間のときもあります。主にY子さんの身体介助やお食事の用意ですが掃除や洗濯もしています。時間的に余裕があれば、リハビリ体操やマッサージもやり、窓拭きや浴室のタイルを磨きなどの大掃除もやっています。


 やっぱり私には、個人宅のフリー契約の仕事がいちばん向いているような気がします。一人の方にゆっくりと丁寧に、決してせかせず時間を気にしないでお付き合いできるのが幸せです。かつて同じヘルパーの仕事をさせていただいたセレブなお宅もそうでしたが、こちらのお宅でも自由にすべて任せていただいています。食材の買い物も料理も、介護のやり方も家の片付けも。Tさんがいらしても、ほとんど別室(Y子さんの寝室)でパソコンのお仕事中なので、Y子さんとふたりだけで過ごすことが多いです。


 Y子さんは、以前お世話させていただいた、元女医さんの“お母さん”(と呼ばせていただいていました。)とは正反対の方で、とてもおとなしく感情を表に出されません。“お母さん”は感情表現がストレートで、喜怒哀楽も激しくとても手応えがある方でした。私は、そんな“お母さん”に惚れ込んでいましたから、最初はY子さんにとても物足りなさを感じていました。それに、失語症のためほとんど話をされず、また話されても発語が不明瞭で、なかなか意味を理解できずにいました。会話ができないのはけっこう辛いものがあります。


 何かおっしゃっても言葉にならなかったり、全然別の言葉を発して見当がつかないありさまでした。例えば「トイレに行きたい」ということを「鉛筆に行く」と言われました。眼鏡のことを「さんかくが・・・、さんかくになっているもの」とか、「ダジメタムレイナしようか!」(言葉になっていない)とか。焦りながら何度も何度も聞き直していると、「もうよか!」と私に対する気の毒さとイライラが混ざり合った感情を笑いでごまかしながら言葉を飲み込んでしまわれていました。


 失語症は、思考能力はあっても自分の意思とは全く無関係の言葉が出てくるらしいのです。パターンはなく、その都度言葉が変ります。時々は正常に話されることもあります。こちらから話しかける言葉は、ほとんど理解され、世間話も通じます。新聞も毎日見られますが、多分内容は理解されていないと思います。ひらがなより漢字のほうを理解される方もあるとか。漢字は映像として記憶されるからなのだそうです。


 しかし基本的要求が、トイレ、お茶、暑い、寒い、眼鏡などだということが分かるようになってきました。血流が悪く体温調節が上手くいかないので暑さ寒さに敏感で、エアコンの温度にも、少しの隙間風にも過敏に反応されます。現代建築ですので、私の家のような古家の隙間風ではないのですが、隣室のドアやカーテンが少しでも開いていると「寒か!」と言われます。


 次第にY子さんの要求を理解する術も分かってきました。「身体に関係あることですか?」「何かが欲しいのですか?」「どちらの方向にありますか?」。そうすることで、Y子さんはうなずいたり、用事のある方向や身体を指差してくださいます。それで私は、的を絞りながら思いつくままに単語を列挙します。連想ゲームのようです。言い続けるといつか的中します。10語以上言ったら失格というルールがないので助かります。
 そしてついに、「ああ〜!Y子さ〜ん、すみませ〜ん!そうだったんですか〜。ち〜とも分からなくてごめんなさ〜い!!ねえ、一生懸命言ってくださっていたのにねえ。」二人とも、ほっとして、ちょっと疲れて、やっとゴールに到着できて笑いこけます。私は、車椅子のY子さんのお膝に顔を埋めながら。


 とても失礼な言い方ですが、犬やねことでも言葉は通じます。でしたら、人間とだったらなおさら当然、それ以上に通じるものです。そう思えるようになってきました。
コメント
  野の花のあっこさんのファンです。
以前から、ブログを拝見しておりました。
時には、涙を拭きながら、声に出して笑いながら、共感し感動を頂いております。今日初めてのコメントです。
 あっこさんは、素晴らしい環境でお仕事されているのですね。
 片麻痺や失語症の後遺症のY子さん、若くして脊髄損傷で下半身麻痺となってしまったTさん、状況を受け入れるまでには、ご本人もご家族も本当に沢山のハードルを乗り越えられたことでしょう。Tさんと、訪問看護の看護師さんの結婚、感動いたしました。Tさんも、看護師さんもステキな方なのでしょうね。何気に重要な役割をされているY子さんのご主人様も穏やかな方なのですね。きっと、ご家族の皆様が、それぞれに素晴らしい方々なんだと想像しました。
 あっこさんの持ち味が全開しそうな環境だとおもいました。コミュニケーションに多少お困りの様子ですが、
あっこさんの、優しさと、素晴らしい介護の方法でほとんど、カバーされていると感じます。
 何だか、初めてのコメントでおこがましいことですみません。実は、一昨年まで回復期のリハビリ病棟で、TさんやY子さんのように下半身麻痺や高次能機能障害の
患者さんの看護をさせて頂いておりましたので、いろんなことが手に取るようです。
人間て凄いですね。特に脳神経は。ほんの少しでもダメージを受けると、きっちりそれなりの症状がでるのですから。そして、リハビリも凄い。頑張っただけ返ってくるものです。Tさんは、そうとう頑張って、今があるのでしょうね。素晴らしい!!!それを支えてこられたY子さんとご家族、感動ものです。
そんな方々のご自宅で介護をする機会に恵まれたあっこさんは、幸運なのだと思います。
生活環境もそうですが、そんなに頑張れる方はそう多くはないものです。
 看護師もそうですが、頑張っている患者さんに沢山の
勇気や感動を頂き、学ばせてもらいますよね。
最後に、Y子さんとのコミュニケーションの方法ですが、「身体に関係あることですか?」「何かが欲しいのですか?」「どちらの方向にありますか?」と質問すると表現するのが難しくなります。Y子さんが短い単語で返事しやすいように、予測したことを単語などで短く質問すると(頷いたり、首を振ることで答えになるような)答えやすいと思いますよ。
 出すぎたことでゴメンナサイ。
また、続きをお待ちしています。
(奈良の吟です 2011-02-22)
 奈良の吟さん、すごく嬉しいコメントありがとうございます!

 そうなんだ!奈良の吟さんは看護婦さんだったんですね。リハビリもなさっていたんですね。私それを知ってとても勇気が湧いてきました。どうぞ私にいろいろ教えてください。とても試行錯誤しています。

 そうなんです。「状況を受け入れるまでには、ご本人もご家族も本当に沢山のハードルを乗り越えられたことでしょう。」・・・その一言に尽きます!
 そして、「看護師もそうですが、頑張っている患者さんに沢山の勇気や感動を頂き、学ばせてもらいますよね。」・・・ほんとうにそうですね。

 このお話、最初はY子さんの失語症のことを書こうと思って始めたのですが、Tさんのことを書かなければ始まらないことに気づき、とても長いイントロになってしまいました。

 でも、今夜また続きを書きます。Y子さんとの言葉のレッスンの楽しく笑える話。
 そして、またどうぞアドバイスくださいね。

 コミュニケーションの方法、ちょっと言葉が足りなかったかな?と思い、少し修正をしました〜。
(“野の花” 2011-02-22)
 Part2、3も興味深く拝見しました。
十分コミュニケーションとれていると思いますよ。
のほほんとしていていいですね。

 私が勤めていた病院も、失語症の方には言語聴覚士が付きっきりでリハビリ療法をされていました。ですから、看護師は言語聴覚士の指示で、日常生活のリハビリをしていたのです。リハビリは他に、理学療法士、作業療法士がいるのですが、それぞれに専門家として素晴らしい関わり方をしています。勉強もよくされていました。回復期のリハビリ療法はとても大事です。
Y子さんは、きっと専門家によるリハビリを回復期にきっちり受けて退院されたのでしょうね。

 これからもお2人で頑張って下さいね。
(奈良の吟です 2011-02-28)
 吟さま、ありがとうございます。

 失語症の訓練ってそんなに難しかったんですね!
(はあ〜!!・・・そんな高い山にはとても登れないよ〜!)

 でも、今日は不思議なことに普通の人のような受け答えでびっくりしました。発語もすばらしく良好!

「あ〜たが来たら寝よう(昼寝)と思って。」
「あなたがそこに居るからよ。」
「あなたいつもすみませんね。美味しい料理を作ってもらって。」
「いいえ〜、こちらこそお世話になりましてありがとうございました。」

 マッサージ(足、肩、背中)や爪切りをしながら、ご自分の昔の思い出話や病気になってなって辛かったこと、私の娘ことを質問されたり(こちらは少し片言でしたが)、そんなこともしみじみとよく話してくださいました。

 すごい!すごい!と思って帰ってきました。
(“野の花” 2011-03-02)
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