婿養子を取っている家庭は、ここの上組だけでも節子さんの所だけに限らない。 (おおまかに末永は、上組、中組、下組に分かれている。) その節子さんの、お仲間の他の二組のご夫婦がある。 この方たちが、"野の花"で新年会をして下さった。 はじけるような大きな笑い声、賑やかな会話。 6人なのに、お酒は1升瓶がどんどん減っていく。 パートナーの生家も末永から遠い人ではない。みんな幼馴染かな? 「私たち、今年で28周年なのよ。みんな同じ年に結婚したと。」 「毎年、こうやって新年会をするとよ。」 とにかく仲がいい。みんな最高にご機嫌! 子供の頃から、一緒に学校に行ったり、遊んだり、喧嘩したりしながら、たくさんの時間を共有してきた仲間なのだ。 家族以上の関係かもしれない。 私やスタッフにもグラスが回る。 石井建設の社長、武光さんは、ずっと下ネタで座を賑あわせている。 奥さんたちは、キャーキャー言って、笑い転げては飲み、笑ってはついでいる。 キッチンにいると、話の内容は聞こえないけれど、スタッフと顔を見合わせて分からないままに私たちもつい笑ってしまう。 座敷に行くと、私たちまでが鴨にされる。 何と言われてもいい。とにかくみんな楽しくて仕方がないのだ。勿論私たちまで。
仲がいいのは、その3組のカップルとは限らない。 末永のこの上組は、特別ほんとうにみんな仲がいい。
話が少し横道にそれるが、数年前、上組の少し痴呆気味のおばあさんが行方不明になった時、地域の消防団員などとともにみんなで丸3日間も捜索したことがあるそうだ。 みんなが会社を休み、女性は総出で、動員の人たちに炊き出しをしたという。
話を戻して、そんなカップルの中のひとり、しげ子さん。 今年50歳。誕生日が同じだと分かって、私たちは急速に親しくなった。 最初は、とっつきにくかった。ぶっきらぼうで、話す時もあまり人の顔を見ない。 しかしそれは、彼女がとてもシャイな性格だったからだと気が付いたのは、少し経ってからだった。 一旦親しくなると、まあ、どこまで人がいいんだろう。純粋で、ひたむきで、感激屋さんで・・・少女のような人だ。 彼女は、写真を撮ったり、詩を書くことが大好きで、部屋にはそんな作品が額に入れられてたくさん飾られている。
ある夜、パジャマ姿でバイクに乗っている彼女に会った。 「どこに行くの?」と私。 「電話かけに。そこの酒屋さんまで。」 「何で公衆電話なの?」 「孫ちゃんが、やっと眠ったけん、電話の声で起したくないと。」 と彼女は笑う。 私だったら、そんな面倒くさいことできないなあ。
しげ子さんの夫は、孝さん。 孝さんは、いつもニコニコとして口数が少ない。 彼女は、その夫君に28年間、惚れっぱなしなのだ。 彼女の家に行ったとき、孝さんがお茶を運んでくれた。
全く関係のない他人でも、仲のいい和やかさを見れるのは嬉しいものだ。 こちらまで幸せな気分にしてくれる。
田舎の風習に馴染みのない私は、最初、この地域である葬儀にまず驚かされた。 ここでは(といっても、田舎では当たり前なのだが)、自宅で葬儀が行われることが多い。 市街地と違って、庭も家屋も十分の広さなのだ。 それに、住み慣れた自宅から、みなで送り出してあげたいという思いもあるのだろう。 通夜も葬儀も、そこの組の人が総出でお世話をする。 特別な事情がない限り、その手伝いのために、農作業も勤めも休む。
人が亡くなると、組長さんは飛脚のごとく、各家庭を回って訃報を伝える。 その夜には、集会所で緊急打ち合わせが開かれる。 通夜の受付係、葬儀のときの受付、交通整理は、主に男性の仕事。 女性は、組の者全員で当日の御斎(おとき)の準備をする。 打ち合わせでは、そんな担当や、調理の開始時間、買い出しのことなどが決められる。 御斎(おとき)は、全くの精進料理で、通夜の際は、それに使用する野菜代の300~500円と、白米1升を持参する。 つい最近までは、野菜代ではなく、本物の野菜を持参していた。 これが見直されたのは、同じ野菜がダブルことや、足りなかったりしたためだ。
葬儀の当日は、全員が、エプロン姿に、包丁、まな板持参で、遅くとも8時からは準備が始まる。 献立はいつも決まっている。 五目寿司、煮しめ、なます、サツマイモやごぼうの天ぷら、椎茸と豆腐の味噌汁。 余分に、手伝い人のための賄い食として、がめ煮(筑前煮)も作られる。 ご飯は、上組所有の大釜で炊く。いいえ、釜だけではなく、お椀、湯のみ、鍋まで準備されている。
今年の新年の一周年のときに、和紙に書かれたとても達筆なメッセージをいただいた。 早いものでもう一周年なんですね。 開店前の大変な日々、開店後の奮闘振りが浮かんできます。 本当によく頑張りましたね。すごい!の一言です。
まるで、学校の通知表の評価のようだ。 お気に入りの先生にほめてもらって、ご機嫌な私は、何度も何度も読み返した。 「TV人生の楽園」の一周年記念パーティーの撮影の最中にいただいた、お祝いのメッセージも和代さんの作品だった。
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