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失語症の方とのお付き合い Part32011-02-22
 ずっと気のせいかと思っていたのですが、初めてお会いしたころのY子さんの言葉は全く分からなかったのに、近頃はかなりの言葉を話されるようになったような・・・?慣れてきたので、様子を見ているだけでY子さんの要求や気持ちが伝わることが多いのも確かですが、それでも、Y子さんが発される言葉に、私はハッと驚かされることがとても増えてきたように思えて仕方ありません。


 そんなことを思っていた新年、いつもの如く点けっぱなしのHNKラジオから流れてきた健康相談を聴いていたら失語症の話があっていました。そこで、「言語聴覚士」という専門の仕事があることを知りました。その後インターネットで失語症のことを少し調べました。
 期待した答えは見つかりませんでしたが、専門的な知識はなくても、長時間一緒に過ごすのだから私にもそれらしいことはしてあげられるかもしれないと思うようになりました。大切なことは、間違ってもいいから安心して話をさせてあげること、何が言いたいのかを辛抱強く聴いてあげること、一緒に言葉を探してあげること、簡単な言葉を繰り返し繰り返し教えてあげること、かもしれないと思いました。(今、図書館で失語症の本を予約注文中)


 そう思った翌日、排便中のY子さんの手を握り話しかけました。
「Y子さん、Y子さんは何でも頭の中でよく分かっていらっしゃるってことが分かりました。ただ、病気で言葉が出てこないだけなんですよね?ねえ、これから私と一緒に話す訓練をしませんか?私とがいちばん長く一緒に居るんですから、お話もいちばん多くしているでしょう?・・・あのね、私ラジオで知ったんですけど、訓練したらお話が出来るようになるんですって!必ず出来るようになるんですって!」
「わたしゃ、ちっとも話せんもんねえ・・・」
「ええ、そうですよねえ、Y子さん、たくさんお話したいことがあるのに、話せないって苦しいですよねえ。辛かったんですよねえ。私、そのことがやっと分かるようになりました。だから、ねっ!間違ってもいいから私とたくさんお話しましょ!一緒に言葉の練習をしましょうよ!」
「はい、しようかね。よろしゅうおねがいします。」
「ああ〜、いかん!いかん!Y子さん、出るものも出ないですよねえ。すんません!もう黙ってますから、ゆっくり出してください。」
「終わられたら、“終わった〜!“って言ってくださいね。言ってみてください、”終わった〜!“って。」
「終わった〜!」
「わあ、ありがとうございます!じゃあ、お台所に居ますからね。」
そして、聞こえてきました。
「終わりました〜!」の大きな声!
「終わった〜」ではなく、ちゃんと「終わりました〜」という敬語でした。
泣けました!抱きしめました。
「Y子さん、私うれしい!ああ〜、うれしい!」
下履きを履かせる準備をしながら、ポタポタと涙が止まりませんでした。顔を上げると、Y子さんの目も潤んでいました。


 Y子さん宅の仕事を始めたころ、Y子さんが便秘気味で、出ても軟便で量が少ないのがとても気になりました。長時間息まれるのでときどきは摘便もしました。それで、元々野菜料理ばかりしていた私ですが、排便を気遣って、いっそう繊維質の多い料理にしていきました。ですから、たくさんの便が出たり形のある良便が出るととても嬉しくなってY子さんを褒めたたえました。
「Y子さん、すごく良い便ですよ!ほら、見えますか?ねえ、すごいでしょう!よかったですねえ!!写真にでも撮って飾っておきたいですねえ!」
 食事のときも、いつも料理の説明をしました。
「量は少し多いですが、ごぼうとかさつま芋とかこんにゃくとかがたくさん入っていてカロリーは高くないですからね。しっかり召し上がってくださいね。」・・・実は、かなり肥満気味なのです。
「今日は、昆布を軟らかく炊きましたよ。昆布は、酸性になった身体をたったの3gで中和するそうです。お通じにも良いんですよ〜。」
 そしたら、つい先日こんな会話が生まれました。
「Y子さん、今日はデイサービスでたくさんの便が出たそうですね。良かったですねえ!ノートに書いてありますよ!」
「あ、そうね。」ニコニコ
「・・・ご飯がいいとやろ!」
分かってらっしゃるゥ〜!何でもちゃんと分かっていらっしゃるんだと確信しました。


 それでも、調子が悪い日もあります。
「チトプパペポ・・・」
「?・・・トイレですか?」
「うん!」
「じゃあY子さん、トイレ!」
「うん、ぞうり!」
「トイレ!」
「ぞうり!」
「ううん、ト・イ・レ!」
「はい、ぞ・う・り!」ニコニコと嬉しそうに。
堂々としたY子さんの明るい言葉に、私はその日一日、ひとり笑って過ごすことができました。


 そして、先週、
 「オショウンニキス・・」
「ん?・・・トイレですか?」車椅子がトイレの方向に向かおうとしています。
「うん!」
「じゃあ、ト・イ・レ!」私は、トイレという言葉を覚えていただきたくて言いました。
「ト・イ・レ」Y子さんは、素直に従ってくださいます。
そう言いながら、はたと今Y子さんが言われた言葉の残音を辿りました。
・・・オショウベンニイキマス・・・?!
「Y子さん、今、お小便に行きますっておっしゃったんですか?!」
「そう!」
「わあ〜、すみませ〜ん、ちゃんとおっしゃったのに私が分からなくて!」
「いいえ〜、私がちゃんと言えんから・・・」


 一日の終わりには、ご挨拶をして帰ります。
「Y子さん、今日も一日ありがとうございました。」と頭を深々と下げます。
「こちらこそお世話をかけました。」とY子さん。
「明日は、朝(お昼)から伺います。朝(お昼)ごはんは作ってありますから召し上がってくださいね。」
「まあ、そうですか。何やらかんやらありがとうございます。」
「それではまた明日!失礼しま〜す。おやすみなさい。」
「失礼しま〜す。」
 このご挨拶は、毎日の定型句ですから、Y子さんも覚えてしまわれました。最初の頃は、私の言葉の語尾だけを繰り返されていましたが、この数日は完璧に近いです!


 今日も、また同じ言葉を繰り返します。
「トイレが終わったら、終わったよ〜!って教えてくださいね。・・・Y子さん、ちょっと言ってみてくださいますか?」
「終わりました〜!」
「きゃあ、Y子さん、すご〜い!ちゃんと敬語に変換されてるゥ〜!」
Y子さんは、ちょっと得意そうに、嬉しそうに笑われます。


 でも、そうは言いながら、とても申し訳ない気持ちになります。
「Y子さん、いつもすみませんねえ。私とても失礼なことばかり言って。」
「そんなこと思わんよ〜」
「・・・あのね、言葉の練習をしていただきたくて・・・。年上の方に、とても失礼だと思うでしょう?」
「いいえ、いいえ、ちゃんと分かっとりますって!いいとよ。ありがとう!」(手を振りクチャクチャに笑いながら)
 

 今日も大飛躍でした。怒りもせずに温かで思いやりのあるY子さんの言葉がいただけました。
 心が通じ合っていると感じさせてくれるとき、まるでお互いの心臓から手が伸びてきて握手する、そんな気持ちになります。

 使用させていただいた画像は、ご主人がお花好きなY子さんのために育てていらっしゃる鉢植えです。
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